あらすじ
橘すみれ、27歳。彼女は感情を失ったのではなく、感情を「言葉にする力」を失っていた。 感情労働の現場で心をすり減らし続けた末、ある日を境に泣くことも笑うこともできなくなったすみれは、「感情鈍麻」と診断される。治療の糸口も見えないまま迎えた、夏の終わりの土砂降りの夜。傘も持たず彷徨う彼女は、雑居ビルの地下にひっそりと灯る喫茶店――『雨音喫茶』に辿り着く。 「雨の日しか、開いていないんです」 店主・雨宮時雨はそう言って、静かにコーヒーを淹れる。不思議なことに、この店では、客は皆、コーヒーを一口飲むと涙を流す。怒りも、後悔も、言えなかった言葉も、雨音に溶けるように。 すみれは店で働き始め、心に傷を抱えた客たちと出会う。そしてやがて、時雨自身が五十年前の大雨の日に最愛の人を失い、その日から「雨の音」を聴き続けてきたことを知る。 最後の営業日、すみれは初めて客としてコーヒーを飲む。その瞬間、彼女の心に音が戻る――。 雨音と、泣き声と、確かにそこにある「声」の物語。
話数
2
文字数
1,668
初回投稿日
2025-12-17
最終更新
2025-12-18
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