あらすじ
碓氷菫はただの男である。大学時代に運よく株と投資で一山当てたが、それでもただの人である。手に入れた莫大な富は菫を幸せにしなかった。菫は大人の世界に、社会に揉まれ、人々の悪意に疲れ、鳴りやまない借金の電話に辟易し、生きる意味をすっかり見失っていた。
そんな菫のもとに、電話があった。姉からの電話であった。電話口の向こうで姉は言った。
「菫、こっちに戻ってきて、おばあちゃんのお風呂屋さん継がない?」
源泉かけ流し、雪見の露天風呂が自慢の日帰り温泉。入浴は一回三百円。営業は昼の三時から夜の六時。一旦風呂の掃除を挟み、夜の七時から十時まで。大晦日を除いて年中無休。
板張りの休憩処に置かれているのは、牛乳を売る自販機と、アイスの入ったショーケース、革張りの古いマッサージ機が2台と、座卓とソファー、長椅子、それから1台のテレビ。
大抵、夏には野球中継、冬にはフィギュアスケートがついて、常連客のじいさんが張り付いて見ている。
常連の近隣住民と時折やってくる観光客に、湯と、清潔な浴場と、憩いの場を売る。そんなごくありふれた風呂屋である。
そんな普通の風呂屋なのに、熱い茶と菓子を供えて神棚に手を合わせてみたら異世界につながってしまった。
訪れた客を、菫はただ、あたたかい湯に案内する。
その湯につかったことで、彼らの運命が少しだけ変わった……かもしれない。いろんな人たちがすれちがってはまた出会う。異世界お風呂屋群像劇。
♨「風呂目」のつくサブタイが風呂屋編
【】のサブタイが、登場人物の現地編です