あらすじ
名門貴族・榛家の次男、尚樹は、王都の学術機関「爻辞研究塔〈離為火〉」で起きた夜間火災の濡れ衣を着せられ、王国西岸の旧港町「無人汀領」へ臨時代官として追放される。半年で成果を出せなければ家からも切り捨てられる――そんな崖っぷちで彼が拾ったのは、持ち主が本当に必要だと理解した品だけを取り出す不思議な術具「銀色の鞄」と、希少な魔獣・棕櫚狐の幼獣だった。
無人汀領は「誰もいない海」と呼ばれながらも、診療所を守る茉奈、書記官の晃治、海女の里未、元領兵の槙、織物職人の香莉ら、土地を見捨てなかった人々が暮らしていた。尚樹は本当は責任を負いたくない。だからこそ、楽をして生き延びるために干物小屋、塩田、湯屋、見回りの仕組みを整え、棕櫚狐の力も借りながら、少しずつ町の暮らしを立て直していく。すると荒れ果てた海辺に食卓と笑い声が戻り始めた。
一方で、研究塔は無人汀領を危険地帯として切り捨てる裏で、人や魔獣の感情を支配に利用する禁術「依存火」を研究していた。茉奈の兄・遼真の失踪もその不正に繋がっていたと知った尚樹たちは、遺された手紙や暗号帳、記録石を手がかりに真相へ迫っていく。やがて研究塔は証拠隠滅のため、海そのものを燃やす「離火潮」を引き起こし、町を消そうと動き出す。逃げ続けてきた尚樹は、もう責任から逃げるのではなく、守りたい食卓と帰りたい場所のために立ち向かう。