あらすじ
昔々、或いは遥か未来の時代。
アルス公国はおよそ20年前まで、アルス民主国として、そして"芸術の国"として栄えた。否、栄えていた、が正しいのだろう。
人は、国民は、アルスという国家は民主主義では存続できなかった。王政主体の社会で、アルス公国は再び緩やかながら纏まりを見せていた。
それはアルスに限らず、幾つかの民主主義国家崩壊の狼煙にすぎなかった。
政治史逆流の始点となった地は今、社会秩序の復興とは裏腹に、ある一角においては影を落としていた。
「はぁ、いいですか。…フロム、この国の大原則は?」
「"芸術は|政《まつりごと》に関与されず、又干渉する術《すべ》としてあってはならない"。芸政不干渉の可笑しな法です、オーナー」
「…それでも法は法なの。芸術の過ちを未然に抑えるための、ね」
オーナーである女性は、あえて無色な声音で告げる。
それでも。
「それでもっ、芸術が縛られたままなのはっ、」
「それは自分の音楽にのせなさい、というのも今はダメだったわね。…コレドール家の娘として謝罪するわ」
「…いえ、オーナーのせいでは」
これは、音楽と共に往く人の物語。
芸術に出来ることなど、限られている。
だが、国に、法に、神に何が救えるのか。