あらすじ
ベルリン。
夜になるとこの街は別の顔をみせる。
かつて情熱を注いだ人生を静かに見送り、知らぬ間に心を固くして生きてきた一人の日本人女性。
年齢を重ねた身体は、もう若さを誇示しない。
その代わりに、経験と沈黙をまとっている。
彼女が足を踏み入れたのはタンゴの世界だった。
言葉よりも先に、身体が応える踊り。
音楽と抱擁のあいだで、忘れていた感覚が少しずつ呼び覚まされていく。
そこで出会う寡黙なリーダー。
多くを語らず、視線と間合いだけで相手を導く男。
彼の沈黙は、ときに距離となり、ときに救いとなる。
踊るたびに、近づく心。
触れ合うほどに、明かされない想い。
これは、派手な恋ではない。
けれど、人生を揺るがすには十分すぎるほどの出会い。
豊かな黒髪のアラカンダンサーが、タンゴを通して自分自身を取り戻していく物語。
そして、言葉にならない恋が、静かに芽吹いていく物語。
魔都ベルリンの夜に漂う香気とともに、人生の後半でしか辿り着けない、再生と愛のかたちを描く。