あらすじ
魔王が存在する世界。
人々は恐れながらも、どこか安定した日常を享受していた。
勇者は存在する。
だが、勇者は決して魔王を倒さない。
なぜならこの世界では、
「魔王が倒されないこと」こそが、経済を回し、雇用を生み、秩序を保っているからだ。
討伐産業、武器開発、復興事業、軍需、保険、情報操作、宗教、政治。
魔王は“脅威”であると同時に、巨大な公共事業そのものだった。
かつて一度だけ、歴史上「勇者が魔王を倒した」と記録された時代がある。
それは人類が勝利した、唯一の奇跡――とされている。
しかしその直後、世界は未曾有の不況に陥った。
失業者が溢れ、国家は破綻し、秩序は崩壊寸前まで追い込まれた。
そして人々は、気づいてしまった。
魔王は“必要悪”だったのではないか、と。
本作は、
王、勇者、魔王、経済官僚、討伐企業のCEO、兵士、一般市民――
**それぞれの立場の人物への「インタビュー」**によって構成される連作短編である。
同じ出来事を、
語る立場が変わるたびに、まったく異なる意味を帯びていく。
・勇者にとって、魔王とは何か
・為政者にとって、勇者とは何か
・国民にとって、平和とは何か
・支配者層にとって、「真実」は必要なのか
そして、最後に明かされるのは――
「なぜ勇者は、勝てないのか」ではない。
「なぜ勇者は、勝ってはいけないのか」だった。
偽りの世界で、
本当に倒すべき敵とは何なのか。
これは、
勇者が勝たないことで成立している世界の、証言録である。