あらすじ
歴史改変なし、転生なし。史実を元にした物語です。
1944年、年明けとともに始まったソ連赤軍の攻勢は、止まることなくドイツ軍を押し潰していった。東部戦線は崩れ始めていた。いや、すでに崩壊の過程にあったと言っていい。
【ヒトラーの撤退禁止命令】により失われていく兵士たち。
そして何より深刻だったのは、部隊をまとめる将校の不足だった。
本来であれば小隊や中隊を率いるはずの少尉から大尉が足りない。
その穴を埋めるように下級士官や下士官が指揮を執るが、それはあくまで応急処置に過ぎなかった。
指揮系統は揺らぎ、部隊は統率を失い始めていた。
――もっとも、それはこの戦場にいる誰もが直面している危機の一つに過ぎない。
そして、兵士たちもまた十分な訓練を受ける余裕を失っていた。
訓練時間が三時間――そう聞けば極端に思えるかもしれない。
だが、第二次世界大戦末期の現実は、それに近いところまで追い詰められていた。
1944年の夏以降、訓練期間は削られ続け、冬になる頃には、十分な準備もないまま前線へ送り出される兵士が増えていく。
それでも、彼らは戦場へ送られた。
そんな時代の、そんな戦場の話である。
新兵シルトは、東部戦線の馬車輸送部隊に配属された。
トラックは燃料不足で動かず、頼れるのは馬だけだった。
だが――補給隊は、最も脆い。
敵からは真っ先に狙われ、味方からは真っ先に見捨てられる。
雪原に残るのは、馬の蹄跡と、消えていった仲間の痕跡だけ。
シルトにとって、将校不足も訓練不足も、遠い戦線の事情に過ぎない。
彼の目の前にあるのは、これから配属される部隊と、自分が生き残れるかどうか――それだけだった。
シルトは愛馬ブリッツと共に、誰にも知られることのない“影の戦い”を歩むことになる。
生還率は、一割にも満たない。
その地獄の中で――
十六歳の兵士と、一頭の軍馬は、
何を失い、何を守り、
どこへ辿り着くのか。