あらすじ
内海に接する芳醇な、セントメディウム王国。古に栄えた南北行路の要所だったが、衰退したいまは大国が奪い合う小国。数十年前からは砂漠の国サハランの属国だ。巨大帝国ビロロンが宣戦布告。迅速な進軍で村や町をすべて落としていった。練度物量ともに卓越する帝国はおごることなく、確実かつ慎重に王都を取り囲んだ。
戦は神の戦いと信じられてる。神の預言を妄信する王家は、降伏勧告する帝国の使者を切り捨てた。民の嘆願も無視して戦うことを宣言する。帝国兵5万人に対して王国軍1万人。滅亡は時間の問題だった。
僕は奴隷兵。大盾持ちとして弓隊に編入させられた。安全なはずの後方部隊が、投げ槍で急襲された。戦線は空転乱。接近する敵に矢は当たらない。重い矢に大楯が貫かれる。仲間の兵が死んでいった。弓隊は壊滅目前だったそこに彼女が現れた。
「やあムズクム。神さま100人に祈っても足りないな」
髪を切った彼女は、散歩で出くわしたかのように、ちょっと驚いて首をかしげた。僕は戦場を忘れた。
人はどんなひどい状況でも生きていかきゃならない。
表情薄い少女は亡国民の救いとなる――かもしれない。