あらすじ
裁判所で偶然目にした青年の姿が、綿矢の心に深く焼き付いて離れない。
――男でありながら妊娠し、恋人から「別れたい」と訴えられ、400万もの損害賠償を背負わされた青年。
涙で声を震わせ、「別れたくない」と必死に懇願する姿を、綿矢は忘れられなかった。
あのとき勝訴したのは自分の兄。だが誇りなど微塵もなかった。
ただ一人、理不尽に追い詰められた“森 蛍”だけが胸に残る。
そしてある日――階段で、ふぅふぅとお腹を押さえながら必死に買い物袋を抱える蛍と再会する。
ひとりで産むつもりなのか? あの苦しそうな体で、誰にも頼らずに。
放っておけるはずがない。
救えなかったあの日の答えを、今度こそ自分が取り戻すために。