あらすじ
勇者が魔王を倒してから三年。
世界から“魔王”は消えたはずだったが、大地の奥に流れる魔力の循環――地脈は、行き場を失い、静かに歪み始めていた。
旅芸人リラは、師の遺した笛と魔導書を手に、灰色の空の下を旅している。
炎を三つ浮かべるだけの小さな魔法と、一つの歌を携えながら。
彼女の旅は、世界を救うためのものではない。
ただ、誰かの前で歌い、少しだけ夜を明るくするための旅だった。
ある日リラは、獣人の子どもシナと出会う。
白い耳に黒い縞を持つその少女は、“魔王の血を引く呪いの子”として追われていた。
連れ去られるように始まった逃避行の中で、リラは知る。
勇者と呼ばれた男が選んだ「正しさ」の代償を。
聖女の祈りの行き着く先を。
そして、魔王と呼ばれた存在が本当に守っていたものを。
世界は誰かが悪だったから壊れたのではない。
ただ、止められなかっただけだった。
やがて彼女たちは、かつて世界の終わりからこぼれ落ちた者たちが集う廃墟の街へ辿り着く。
そこには、戦うことをやめた人々と、まだ何かを諦めきれない人々が暮らしていた。
リラは今日も歌う。
何も変わらないかもしれない、それでも誰かの足を止めるために。
――それは、世界を救う英雄譚ではない。
世界の“後”を生きる者たちの、静かな再生の物語。