あらすじ
「機械の人」と呼ばれる仕事がある。
医師でも看護師でもない。患者に直接触れるわけでもない。それでも、その機械の向こうには必ず誰かの命がある——臨床工学技士(CE)という職業の話だ。
南條アキ、二十六歳。病院勤務五年目。夜明け前のICUで一人、人工呼吸器の回路を指先でたどりながら、今夜も同じ問いを持て余している。「私は、ここにいていいのだろうか」
「メリーちゃん」と呼ばれることに慣れてきた自分が、たまに怖くなる。MEがメーになり、メーがメリーになった。悪意はない。でも、南條アキという名前は、この病院ではまだちゃんと機能していない。
正確さだけでは届かないものがある。そうわかっていながら、その「届かないもの」が何なのか、まだ言葉にできないでいる。
同期の鳥海ユウは軽やかで、洞察が鋭く、アキが言葉にしないことを読み取る。心臓血管外科の一ノ瀬凌は、要求が高く、感情を外に出さない。ある朝、彼はアキの名前を呼んだ。「南條、だな」「覚えた」——メリーちゃんでも、メーちゃんでもなく。
入職から技士長就任まで、十五年の物語。怖いまま手を動かし、渡されたものを渡していく、臨床工学技士たちの群像劇。
医療に詳しくない方にも読んでいただけるよう、専門用語にはそのつど説明を添えています。