あらすじ
国境線が、たった二キロずれていた。
そのせいで、川も市場町も、四万人の暮らしも、百三十年ずっと「隣国のもの」になっていた――。
西アフリカの領土紛争をめぐり、国際司法裁判所に立つ女性法学者アミナ。彼女が見つけたのは、植民地時代の測量日誌に残された小さな誤差だった。地球を「球体」として近似した計算が、すべてを東へ、東へとずらしていたのだ。
だが、正しい座標を示せば勝てるわけではない。
その境界線の上には、すでに学校があり、市場があり、人々の生活がある。
さらに日誌には、線をわずかに動かし、市場の分断を避けたらしい無名のガイド「F.」の痕跡が残されていた。
数学的な正しさと、百三十年積み重なった生活。
どちらを選んでも、何かが裂ける。
地図の歪みと法の歪みを問う、知的法廷短編。