あらすじ
夜のオフィスでモップを動かすだけのはずだった。
五十八歳のパート清掃員・佐伯昌代は、団地の古い友人・村井の訃報を耳にする。再開発ビルの工事現場からの転落死。酒に酔った上での事故だという。
だが、村井は半年前にきっぱり酒をやめていた。現場近くのバス停には、雨のたびに同じ場所にだけできる、不自然な水たまり。昌代の胸に、職を転々としてきた年月で培われた「安っぽいごまかし」を嗅ぎ分ける感覚がよみがえる。
市の再開発、下請け業者、区議会議員の影。誰も見向きもしない中年の女が、モップと雑巾しか持たないまま踏み込んでいく、灰色の真相とは。
静かな夜の匂いと、足元の水たまりが暴き出す、ささやかな一人の証言の物語。