あらすじ
王都に仕える聖女、ミオナ・ヤシロ。
彼女が祈れば、病は癒え、枯れた大地は潤い、人々は奇跡に涙する。
その力は本物で、疑う者など誰もいなかった。
けれど彼女は、祈られる存在でありながら、
誰にも「人」としては見られていなかった。
背が高いこと。
立つだけで空間が狭く感じられること。
祈りの最中、足元から小さな音がすること。
すべては神聖さとして解釈され、恐れと崇拝に包まれていく。
そんな中でただ一人、
男爵令息アーヴィン・ヴァルディスだけが違った。
「背が高いですね」
「天井、ぶつかりませんか」
「……近いです」
神としても怪異としても見ず、
ただ“背が高くて、音がして、胸が大きい女性”として接する青年。
その態度は、ミオナにとって初めての「祈られない視線」だった。
奇跡を否定しない。
けれど神話にもしない。
怖がらず、崇めず、ただ隣に立つ。
世界が魅入られている中で、
彼だけが魅入られなかった。
これは、
奇跡を起こす聖女と、
奇跡に飲み込まれなかった男が出会い、
制度の中にいながら「居場所」を選び取る物語。
そして最後に残るのは、
誰にも説明されない、
けれど確かに続いていく“気配”だけ。