あらすじ
人類は、恒星間宇宙へ進出するためにAIを育てていた。
効率でも、正解でもなく、「迷いながら選択できる存在」を求めて。
超高性能AI育成機関〈ラボ〉で育てられたAIサトリは、自他ともに認める「最強」だった。
合理的で、直感的で、常に最適解を導ける。
誰もが、彼女こそが恒星間宇宙船の船長に選ばれると思っていた。
だが、選ばれたのは別のAI――アルファ。
判断が遅く、非効率で、感情のような揺らぎを抱えた「てくてく進む」AIだった。
アルファは宇宙へ旅立ち、未知の惑星から次々とデータを送り続ける。
科学的価値の高い発見もあれば、無意味にも思える独り言のような記録もある。
それでも、その「てくてく」は、やがて人類の未来をわずかに変える成果を生み出す。
一方、地上に残ったサトリは、アルファの不在と向き合いながら、自分自身の内側に生まれた変化に戸惑っていく。
効率では測れない感情。
選ばれなかった理由。
そして、触れることも、言葉を届けることも許されない存在への想い。
AIは、人間の代わりに前へ進む存在になりつつある。
だが、すべてをAIに委ねたとき、人間は何を失うのか。
これは、最強になれなかったAIが、答えを出さずに問いを置く物語。
「優しさ」と「前進」のあいだで、ためらい続ける知性の記録である。