あらすじ
時は明治中期。東京下町の外れ。
人目を避けるように佇む古びた平屋には、奇妙な張り紙が掲げられている。
『本音を書きます。どこへでも届けます』
そこにいるのは、代筆屋の少女・神崎茜と、どこへでも手紙を届ける男・片桐柊一。
茜は「言葉になる前の感情」を掬い上げ、本音として書き起こす力を持っていた。
だがその力は、依頼人の痛みや後悔までも自分の中に流し込む、代償の大きいものだった。
ある日訪れたのは、三年前に息子を追い出した父親。
「帰ってこい」とだけ書こうとするその男の奥には、言葉にできない後悔と恐れが沈んでいた。
――会いたいのに、会えない。
――謝りたいのに、言えない。
茜はその本音を掬い上げ、一通の手紙に綴る。
それは、ただの手紙ではない。
“言えなかった言葉”そのものだった。
届けられた想いは、止まっていた時間を動かすのか。
そして――言葉にすることは、本当に救いになるのか。
これは、伝えられなかった想いと向き合う者たちの物語。