あらすじ
「俺だけの責任じゃない」――その自己正当化によって、長年の倫理観は瞬時に融解した。
不渡りまであと30時間。極度の緊張に苛まれる中小企業社長・中原が最後の脱出口としたのは、高額当選した宝くじだった。会社の「血液」たるその金を銀行の貸金庫に隠すため、彼は一つの「最初の嘘」をつく。
中原の逃走を手伝うことになった融資担当の銀行員・西尾もまた、FX取引で莫大な借金を抱え、ロスカット寸前の地獄に立たされていた。中原の欺瞞は、西尾の心に「自分も被害者だ」という歪んだ正当化を許し、彼の「銀行員としての信用」を一瞬で溶解(メルト・ダウン)させる。
西尾は貸金庫から金を盗み出し、全額をFX口座に投入するが、相場は一瞬で急変。数億円の資金は「物理的に融解」し、跡形もなく消滅した。
だが、この破滅の連鎖は終わらない。
冷酷な債務整理のプロ・黒沼は、金を追って二人に迫る。 「金は必ず残る。俺は形跡を追うだけだ」
「すべて使った」という西尾の物理的な真実の叫びは、「大金は必ず残る」というプロの論理と常識によって、「最大の嘘」として一蹴される。
金銭も信用も、真実さえもが溶け去ったこの地獄の輪廻は、本当に誰かの「悪意」だけで始まったのだろうか? 人間の根源的な自己欺瞞と欲望が引き起こす、現代の業を描いた金融サスペンス・短編。