あらすじ
王太子妃候補席を退いた朝、シグリ・ヴァト伯爵令嬢のもとに王太后陛下からの呼び出しが届いた。「半年で、残った四人を仕上げてくれ」。
候補の座を譲ったあとに渡されたのは、妃ではなく、教える側の任だった。王宮東棟の教場で待っていたのは、磁器の人形のように完璧な公爵令嬢ティルダ、辺境から出てきて言葉に泣きそうになる侯爵令嬢ヘルガ、家の借金を一人で背負う伯爵令嬢ミンナ、そして植物の名前ばかり覚えている最年少のフェリツァ。
シグリは四人を妃候補として均等に育てる気でいた。けれど靴擦れを隠す少女、声を失う少女、紙片を机の下に隠す少女、そして雨の薬草園に消える少女と向き合ううちに、自分の半年が、別の方向に進んでいることに気がついていく。
そして、教場の隅にいつのまにか立つようになった、栗色の髪の青年がいた。シグリの父の処分の真相を知っていて、シグリの名前を呼ぶ前に半呼吸ためらう、不器用な王太子ベリト。
「私は、あなた方を妃に育てるためにここにいるのではありません。あなた方が、自分の名前を呼ばれた時に、一拍で返事ができるように、ここにいるのです」
四人と一人の半年と、お辞儀の角度と、北方の言葉と、雨の薬草の匂いと、襟元の銀木犀の刺繍。ほっこり、王宮の中の小さな教場で、五つの名前が、それぞれの場所を見つけていく物語。