あらすじ
社交界で最も仲の悪い二人が、夜だけ共犯者になる。
没落子爵令嬢テレーゼは、父の遺した暗号日誌を手に、たった一人で宮廷の闇に挑もうとしていた。父に着せられた横領の冤罪。奪われた爵位と名誉。真犯人は宮廷財務卿ギュンター。だが没落した令嬢に、権力者を告発する手段はない。
ある夜、侯爵邸の隠し書庫で鉢合わせた男がいた。社交界きっての皮肉屋、クラウス・ブラント侯爵。昼の舞踏会では犬猿の仲として嫌味を交わし、夜の書庫では背中合わせに座って作戦を練る。
暗号を解く才能と、宮廷内部の情報。互いに持つ武器を交換する、利害の一致だけの関係。そのはずだった。
嫌いなふりを続けるほど、仮面の裏が痛くなる。信じたいのに、信じれば傷つくことを知っている。彼の皮肉の奥にある不器用な優しさに気づくたびに、取引の境界線が揺らいでいく。
敵のふりをしたまま、どこまで味方でいられるのか。