あらすじ
十年前、戦地で死んだと知らされた婚約者。
待ち続けることも、諦めることも終えたはずの春の日、私のもとにひとつの木箱が届く。
差出人に記されていたのは、もうこの世にいないはずの彼の名。
中に入っていたのは、宝石でも勲章でもなかった。
木の髪飾り、少し欠けた白いカップ、香りの抜けかけた小さな花袋――
どれも、かつてふたりで交わしたささやかな約束や、ありふれた日々の記憶につながるものばかりだった。
そして箱の底に残されていた一通の手紙を読んだとき、私は知る。
彼が最期まで忘れなかったものと、帰れないままでも帰ろうとしていた想いを。
これは、十年越しに届いた小さな箱が、
止まっていた時間をもう一度静かに動かしていく物語。