あらすじ
山里の集落火災。炎を切り裂いて進む消防隊が見つけたのは、焼け跡で無傷の耐火小瓶だった。封は蝋、刻印は見慣れない病原体マーク。同行する保健所職員は「検体です、搬入を」と主張。だが封の有無で延焼挙動が変わる不可解な現象が発生し、隊長は“封切り=延焼鎮静/封保存=誰かが燃え続ける”という身代わりのルールを現場で突きつけられる。感染か、祟りか、作為か。運用手順と人命の狭間で、最後に燃えるのは誰だ。
時代・場所:現代・県境の山里。谷筋の過疎集落、製材所と旧社、簡易水利。
災害状況:延焼等級「大(風あり)」、林野火災から構造物へ波及。
組織線:消防本部(指令・警防・救急)/地元分団/保健所(危機対策係)/感染研搬送班(委託業者)/県警鑑識。
キーアイテム:耐火小瓶(石英ガラス+耐炎蝋封、刻印:三重円に斜線=危険物/病原体風)、封緘糸、古い“火伏札”。
山の火事は海のように押してくる。
木の葉は泡、柱は波。耳の奥で潮騒みたいな轟きが続く。
藤巻は溝のように黒く焦げた路地を抜け、瓦礫の底で光るものを見た。
石英ガラス。蝋封。刻印は三重の円に斜線。
「触るな、温度が落ちてからだ」
彼が言うより先に、白い防護服が手を伸ばしていた。
「検体です。搬入します」
「何の検体だ」
答えは風に攫われた。代わりに火が一段、背を低くした。
一瞬、炎が引いたのだ。
誰かが呟いた。
「その封、切ったら……止まる?」