あらすじ
「人間の口は真実を語らない。魂だけが痛みを叫び続ける」
——これは、病の真実を暴く偏屈な天才と、心の傷に寄り添う奇人。二つの顔を持つ男の物語。
魔法が医療として確立している世界。
辺境にある古びた診療院には、かつて王都で名を馳せた天才「識病官(しきびょうかん)」アーレン・グレイヴがいた。
その役目は、患者のあらゆる症状や隠された秘密から病の真因だけを解き明かし、決して間違えぬ結論を下すこと。
他者の魂の状態が直接視える『魂視』という異能を持つアーレンは、誰よりも正確に病を分析できる。
だがその代償として、他人の苦痛を直接自分の中に引き受けなければならず、彼の右腕は禍々しい鉱石のように「結晶化」していく後遺症を抱えていた。
痛覚を麻痺させる特殊な煙草の匂いを漂わせ、口を開けば皮肉ばかり。
そんな人間嫌いの彼のもとに、「十二歳の少女」が運び込まれてくる。
あらゆる治癒魔法も薬も効かないその“病”の正体。
それは、少女自身が自らの心を守るため、自発的に魂を「凍結」させているというものだった。
なぜ、少女は自分の魂を凍らせなければならなかったのか?
肉体の病を論理で突き止める【識病官】として。
そして、魔力と結びついた感情の歪みや魂の傷に向き合う【調魂官】として。 アーレンは、自分の中に流れ込んでくる少女の悲しみと痛みに耐えながら、凍りついた魂の深層へと身を投じる。
自らの人間性を削りながら、誰よりも「人」の心に近づき救い出す、異世界医療ミステリー短編。