あらすじ
明治の世も半ばを過ぎ、銀座の街にガス灯が白く輝くころ。
喧騒を離れた赤坂の隠居宅で、一人の老人が静かに酒を呑んでいる。 男の名は半七。かつては「三河町の親分」としてその名を知られ、江戸八百八町の暗闇を鋭い眼光で見通した名御用聞きである。
新聞記者であり時に作家でもある「僕」が訪れるたび、老人は細い目をさらに細め、懐かしそうに昔語りを始めるのだ。 それは、いまはもう失われた、古き良き江戸の事件帖である。
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岡本綺堂が遺した不朽の名作『半七捕物帳』を、現代風に装いを新たに蘇らせました。 原文の持つ格調高さを損なうことなく、現代仮名遣いで読みやすく整え、さらに当時の風俗や季節の彩りを鮮やかに加筆しています。
春の夜風に舞う桜、路地裏に漂う屋台の蕎麦の香り、しとしとと降る秋雨の冷たさ、そして雪の朝にすする熱い茶の味――。
単なる謎解きにとどまらず、そこに生きる市井の人々の哀歓や、四季折々の江戸の「空気」までもを、五感で味わえるよう再構成をしてみました。
御用提灯の灯りが揺れるとき、酒、金、男女の業が浮かび上がります。
さあ、ご隠居の火鉢のそばへ座ったつもりで、日本で最初のミステリーと江戸の情緒をご賞味ください。