あらすじ
「雨の夜、その峠で名前を呼ばれると消える」
地方大学の民俗学講師・葦原志津子は、ゼミ生が持ち込んだネット怪談をきっかけに、“宵泣き峠”という禁忌の地名を知る。
それは、地図から消され、記録からも削除され、それでも語られることで再び開いてしまう場所だった。
雨音に混じる泣き声。
鏡や水面に現れる濡れた子供。
名を問われた者が、記録ごと世界から失われていく怪異。
しかも志津子自身もまた、幼い頃にその怪異へ名前を与え、境界をつなぐ“橋”になっていた。
返してはいけない。呼んではいけない。それでも忘れてはいけない。
散った声を一つの唄へ束ねるため、志津子は最後の雨の夜、宵泣き峠へ向かう。