あらすじ
「見えること」は、いつも少し、遅すぎる。
幼い頃、父が吸う煙草の煙の中に怪異が見えた。止めることもできないまま、父は失踪した。それから二十年、霧島燈は「見えること」を誰にも話さず、街の片隅で禁煙外来クリニックを開いている。
患者が吸う煙の中に、今日も怪異が現れる。
言えなかった言葉を抱えた煙怪。触れたくても触れられない煙怪。誰かに名前を呼んでほしかった煙怪。燈は彼らと向き合い、見届けて、そして去る。それだけが燈にできることだと、ずっと思っていた。
でも——消えていくものを「ただ見ていること」と「見届けること」は、同じことじゃないのかもしれない。