あらすじ
「『聖女です』とは言わない。『聖女かもしれません』と言う」
これは、路地裏でスリを生業にする十四歳の少女・エナが、司教・ルカから「聖女になれ」と命じられた時の条件だった。
行く先々の町を襲う謎の病。その正体は「信仰の枯渇」——人々の心が空になり、体がそれを拒絶する現象だった。
エナの役割は「嘘の聖女」として立ち、人々に希望を灯すこと。そして、その奇跡を可能にするのが、相棒となる「影の執行人」カイトだ。
カイトは「記憶石」と呼ばれる鉱物を使い、人々の本物の感情を光に変える力を持つ。しかしその代償に——使うたびに、自分の記憶を一つ、無作為に失う。
エナは彼に言う。
「私が覚える。あなたが忘れたもの」
だが、そんな二人の前に現れる、五年前の過去と向き合う一人の騎士。
嘘から始まった偽りの聖女伝説は、やがて——誰かの「本当」を預かる物語へと変わる。