あらすじ
この世界には、「断罪イベント」と呼ばれる儀式がある。
悪役令嬢が罪を告発され、王子とヒロイン、そして民衆の前で裁かれる――
それは正義を確認し、秩序を保つための“物語として完成された制度”だった。
しかし、その物語が始まる前から、
悪役令嬢ディアナは自らを裁くように荒行と苦行に身を投じていた。
王子アルグレイトは困惑し、
ヒロイン・サーヤは恐怖し、
宰相ジルドは制度を守るため「正式な断罪を受けてほしい」と懇願する。
だが、ディアナは止まらない。
彼女は裁かれる役を拒み、同時に裁く者になることも拒否していた。
やがて民衆は気づく。
断罪が行われないまま時間が過ぎることに、不安と不満が募ることを。
「悪が罰せられない世界」に、正義はどこへ行ったのか。
その責任は王子へ、そして沈黙を続ける王へと向けられていく。
王が介入しても、断罪は復活しない。
制度は壊されたのではなく、誰にも引き継がれなかったのだ。
裁きのない日常が始まり、
救世主を求める民衆の期待は、やがて敵意へと反転する。
沈黙を貫く王、語ってしまう王子、
そして――ついに言葉を求められるディアナ。
彼女は初めて語る。
正義も、答えも、未来像も示さず、ただ一つだけ。
「私は、裁かれる役を降りただけです」
それは革命でも救済でもない。
誰かに委ねていた“裁き”を、各人の手に戻す宣言だった。
救世主が現れない世界で、
正解のない日常をどう生きるのか。
この物語は、断罪が終わった後の社会を描く、
静かで残酷な制度崩壊の記録である。