あらすじ
【不可逆の時に逆らうことはできない。試みた罰を受けろ】
黒鉄期1751年、オース大陸。人族至上主義を掲げるオース王国と人智十字教会は、12万の軍勢と選りすぐりの12人の「勇者」を送り込み、混血種の希望である魔王ラビスを包囲した。しかし、魔王が放った第6位階魔術「千刃」の前に、人類の希望は一瞬で塵へと帰す。
敗北を拒絶した賢者エウレは、神の領域を侵す禁忌「時反し魔術」を発動。生き残った8人の勇者を1692年の過去へ送り込み、魔王の母レオリナを殺害することで、魔王誕生という因果そのものを抹消しようと目論む。
だが、魔王ラビスもまた、密かに「九人目の勇者」を盤上に配置していた。その男の名は、ルーベンカー。戦場で命を落とした彼は、魔王の術式によって「再誕」し、勇者たちよりさらに四半世紀も前の1670年へと送り込まれる。
1670年のスラムに漂着したルーベンカーに課せられた任務。それは、後に魔王の生母となるレオリナを守り、そして20年後に現れるかつての戦友――8人の勇者を「剪定」すること。ルーベンカーは「ルーパート」と名を変え、自分の正体を隠したまま、愛する妻オレリアと娘レオリナを見守り続ける孤独な歳月に身を投じる。
20年後。1692年の草原に、未来を救うという「大義」の名の下に狂鬼へと変質した勇者たちが降り立つ。彼らは未来の12万人の命という計算上の正義のために、目の前の無実な村人を「歴史の塵」として虐殺し始めた。
土地に根を張り、歴史の正当な構成員となった「老狼」と、時空の異物となった「勇者」たち。 かつての仲間たちの弱点を知り尽くした男による、最も残酷で誠実な「因果の清算」が幕を開ける。これは、歴史の闇に消された一人の男が、家族と未来を守り抜いた20年間の秘匿伝記である。