あらすじ
「足が動かない」
それは、母が私と同じ年齢だった頃、突然起きた出来事だった。原因も分からないまま救急搬送され、告げられた診断名は「変形性股関節症」。当時の人工股関節は寿命二十年と言われ、母は過酷なリハビリと長い寝たきり生活を経験した。幼かった私は、その背中をただ見ていることしかできなかった。
それから三十五年。
私自身も同じ病名を告げられる。仕事を続けながら騙し騙し過ごしてきた股関節は、ある日の転倒をきっかけに一気に悪化した。立つ、座る、眠る、湯船に入る、爪を切る。日常の当たり前が少しずつ奪われていく。医師は静かに言った。「QOLの観点からも、手術の必要性は十分あるでしょう」。
しかし、手術を決めても次の問題が立ちはだかる。「どの病院で手術を受けるのか」。紹介に頼れない状況の中、私は自分の足で病院を訪ね、情報を集め、医師と向き合いながら答えを探していく。そして、名医との出会いとわずか三十分の対話を経て、私は自分の直感を信じて執刀医を決めた。
母の背中を見ていた少女は、いま自分の足で次の一歩を踏み出そうとしている。
これは、変形性股関節症と向き合い、手術という選択を通して「もう一度歩く人生」を取り戻していく、一人の記録である。