あらすじ
これは今から百年後、21XX年のお話。
妊娠も陣痛もない世界で、子どもは「ガラスのゆりかご」で十日間育てられ、完全に整った乳児として配達されるのが当たり前になった時代。
高坂華は、その制度の恩恵を受けてキャリアを続けながら、夫・勝と娘の紗良を育てている。
身体は傷つかない。キャリアも中断しない。夫も家事育児を当然のように分担してくれる。
――それなのに、どこかで「自分は本当に母親なのか」と、不意に立ち止まってしまう。
「命がけで産んだからこそ母になれた」と信じる義母。
「今の世代は施設出産で楽でいいな」と笑う職場の同僚。
そして、完璧なはずの出生施設から届いた、娘の“わずかな異常”を告げる通知。
痛みを引き受けない代わりに、彼女たちは何を引き受けるのか。
旧来の価値観と新しい制度のあいだで揺れる華は、夫や専門家との対話を通して、自分なりの「母であること」「家族であること」のかたちを選び取ろうとする。