あらすじ
高校時代、空前のバンドブームに憧れながらも、楽譜も読めず、夢を形にできなかったケンジ。五十代になった彼は、安定したが空虚な日常を生きている。ある夜、職場で耳にした懐かしい音をきっかけに、若い頃に作った旋律を無意識に口ずさんでいる自分に気づく。それは、何十年も鼻歌として歌い続けてきた、未完成の曲だった。
「使う資格がない」と思いながらも、ケンジはAIを使ってその旋律を形にしてしまう。軽い出来心で匿名公開した楽曲は、少しずつ再生され、やがてプロデューサーの目に留まる。だがケンジは、自分が表に出ることを拒み、曲だけを手放そうとする。
二曲目、三曲目は、若い頃の夢ではなく、「今の人生」をそのまま歌ったものだった。それらが静かに世に届き始める中で、ケンジは気づく。夢を叶えられなかった人生にも、終わりではなく“続き”が残っていることに。
翌朝、彼はいつもより少し早く目覚め、知らない旋律を鼻歌でなぞりながら、もう一度始めることを選ぶ。