あらすじ
潮平仁(しおひらじん)、五十代。鉄骨の上で生きてきた現場一筋の男は、冬の沖縄の現場で突然倒れ、脳梗塞と診断される。動かぬ左半身。積み上げた三十年を失った絶望の中で、仁は奇妙な「色」を見る力に気づく。人の感情が色として視界に滲み、真実を隠さない世界が始まった。リハビリに通いながら、仁は元弟子の裕也からBIMという“新しい現場”の仕事を勧められ、デジタルの世界と向き合いはじめる。
やがて仁は、就業支援センターで伊佐みつきという少女と出会う。彼女の背後には、深い喪失の「黒」と、その中心にかすかな金色の粒子が揺れていた。その光は、失われた妹・ひなたの「残り火」だった。みつきの記憶には、妹が突然消えた七年前の事件だけが抜け落ちている。家は無色に沈み、母は罪悪感に縛られ、父は行政で見た「封印された失踪記録」に怯えて沈黙していた。
仁の娘・美咲も、画面越しに調査へ加わる。三人の少女—みつき、結衣、美咲—が交わることで、みつきの内側に残された「光」が次第に明滅を強めていく。仁は、自らの過去の罪と向き合いながら、伊佐家の止まった時間を動かそうと決意する。
封じられた児童失踪の記録、港湾で消された工区、行政の黒塗りデータ。やがて仁たちは、七年前の「真実」の入り口へとたどり着く。
壊れた家族と、失われた家族の物語は、互いの欠けた部分を照らし合いながら、新しい「結び」へ向かって動きはじめる。