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政略結婚の相手は、字が読めない侯爵だった。 手紙は副官が代わりに読み上げる。だから私は感情を削いで、報告書のような手紙を送り続けた。白薔薇が咲いても「見せてあげたかった」とは書かなかった。眠れない夜があっても「静かすぎます」とは書かなかった。 二年後、夫の戦死の報が届いた。 泣けなかった。それが、かえって苦しかった。 三日後、副官が屋敷を訪ねてきた。 「閣下は意識を失われる前、ずっと何かを呟いておられました。耳を近づけてわかりました」 「……何を」 「奥様の、手紙でした。最初の一通から、順番に」 私は引き出しの奥から、送らなかった手紙を取り出した。二年分の、消した言葉たち。 これを持って、北方へ向かう。
令和八年のバーチャルエッセイ