あらすじ
山間にそびえる巨大な廃墟、旧・水景館。
十年前、六〇六号室で起きた「首吊り自殺」を境に客足は途絶え、建物は死に絶えた。
リゾート開発会社の建築士・恭平は、この巨大物件を相場以下の底値で買い叩き、グランピング施設として再開発するため、単身で現況調査(デューデリジェンス)に訪れる。
彼の目的はただ一つ。「六〇六号室の死は単なる突発的な自殺であり、物件に呪いなどの『心理的瑕疵』は存在しない」と合理的に証明すること。
しかし、レーザー距離計と図面を手に六〇六号室へ足を踏み入れた恭平は、建築士として「致命的な矛盾」に気づく。
内開きの重厚な防音ドア。
不自然な位置にアンカーボルトで床に固定された姿見。
そして、警察の調書に残された、ロープの長さ。
最新の調査機器が暴き出したのは、彼が「自ら命を絶った」理由ではない。
彼がロープを使ってまで、「絶対に、外からドアを開けさせまいとしていた」という、狂気的な空間設計の真実だった。
事故物件の「呪い」などではない。
この部屋は最初から、何かを外に締め出すための『蓋』として造られている——。