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目覚まし、通勤、仕事、帰宅。社会人のミナトは、毎日を正しくこなしながらも、感情が動かない「薄い日々」に疲れていた。できてしまうからこそ怖い。気づけば一日が消えていく。 ある夜、ビルのロビーで清掃員のサキに声をかけられる。「何も変わらない日って、ひとつだけ変えると効きますよ」。帰り道を変える、飲み物を変える、靴紐を結び直す。どれも小さいけれど、続く形の変化だと言う。 半信半疑のままミナトは駅の出口を変え、いつも買う缶コーヒーの代わりに温かいお茶を選ぶ。違う匂い、違う風、指先に残る熱。部屋に帰ると、引き出しの奥から昔の自分が書いた古いメモ帳が見つかる。表紙にタイトルを書き、今日変えたことを一行だけ記す。 翌日も世界は同じように回る。それでもポケットの中のメモ帳が、今日を「昨日の続き」から少しだけ離してくれる。何も変わらない日に、ひとつだけ変える。小さな一手で、今日が自分のものになっていく。
机の上には、何もなかった。 ——はずだった。 変わらない部屋。 ついたままの小さな灯り。 外の世界は、今日も驚くほど正常に動いている。 けれどある午後、 音もなく置かれていた小さな箱が、 静かに、その均衡をほどいていく。 中に入っていたのは、 言葉ではない、ひとつの欠片。 それは何も語らず、 何も起こさない。 ただ、部屋の空気だけを、 ほんの少しやわらかく変えていく。 これは、 大きな出来事が起こらないまま、 それでも確かに何かが届いてしまう、 静かな時間の物語。