あらすじ
曽祖母が語る昔話の中には、必ず一人の女性が登場する。
ふらりと現れ、年を取らず、誰かの人生にそっと寄り添う尼、「八百比丘尼」だ。
曽祖母は「本当に会った人なんだよ」と笑うが、その語り口には作り話とは思えない温度があった。
物語は、曽祖母が家族に語り継いだ“八百比丘尼と人々の短い交差”を、一話完結のオムニバスとして描く。
戦に負けたもの、帰らぬ夫を待つ女、使命を果たせぬと悩む者、老いに怯える者。流れる時の中で、八百比丘尼は突然現れ、特別な奇跡を起こすわけでもなく、ただ静かに話を聞き、去っていく。
曽祖母が語ったそれぞれの物語は、真実か伝説かはわからない。それでも、どの話から読んでも、人の人生の儚さと、八百比丘尼の静かな優しさが浮かび上がる。
曽祖母の語りを受け継ぐように、読者もまた“八百比丘尼に出会った誰か”の人生をそっと覗き込む。短い人生と永い時間が交差する、その一瞬の温度を描くヒューマンドラマ。