あらすじ
鍛刀中に意識を失った現代刀工・武蔵国住兼真は、目を覚ますと鍛冶場ごと異世界の森に転移していた。
状況を把握する間もなく、折れた剣を手にした女騎士が魔物に追われて飛び込んでくる。
兼真は迷わず一振りの刀を渡した。
「両手で柄を握れ。叩くな――引いて斬れ」
その一言で、戦いは終わった。
魔物は、何の抵抗もなく斬れていた。
それは完成された刀ではない。本来は別の依頼主のために打たれた“影打”――本歌へ至る前の一振り。
だがその刀は、この世界の常識を否定する。
叩き、力で断つ剣の世界において、
“引いて斬る”という概念は存在しなかった。
やがて女騎士は、その刀に適応していく。
そして気づく。
自分が強くなったのではない。
この刀と、この刀工が異常なのだと。
鍛冶場にしか存在しない技術。
限られた玉鋼。
量産できない刀。
ゆえに、価値は独占される。
騎士団、冒険者、貴族――
すべてが“その刀”を求めて動き出す。
だが兼真は言う。
「売らん」
これは、戦わない刀工が、
武器の概念そのものを書き換え、
戦場を裏から支配していく物語。