あらすじ
無花果(いちじく)の呪い
親との喧嘩の末、家を飛び出した**「僕」は、格安の賃料に惹かれ、ある市営の仮設住宅へと入居する。そこは破格の月額二千円の事故物件**だった。
不気味なほど静まり返った長屋の庭には、不自然に生い茂る立派なイチジクの木があり、その根元には破られた「御札」の燃えカスが散乱していた。
入居したその夜、「僕」は奇妙にリアルな悪夢を見る。それは、その家で無理心中を図り、家族の遺体をイチジクの木の下に埋めた男の記憶だった。夢の中の男は、死体を養分にして実った「禁断の果実」の異常な美味さに取り憑かれ、その味を再現するためにさらなる殺人に手を染めていく。
飛び起きた「僕」が窓の外を見ると、夢と違わぬ光景が広がっていた。庭には不審な男が何かを埋めており、昨日までなかったはずのイチジクの枝には、まるで血の塊や赤子のような禍々しい実が、一晩にして熟れきっていたのである。
本能的な恐怖を感じた「僕」は、すべてを放り出して実家へと逃げ帰る。その後、庭にいた男は死体遺棄容疑で逮捕された。
一命を取り留め、平穏な日常に戻ったはずの「僕」だったが、それ以来、自分自身の体から熟れ腐ったイチジクの血生臭い匂いが消えないことに気づく。それは、あの忌まわしき果実に魅了され、取り込まれかけてしまった者への消えない「呪い」の予感であった。