あらすじ
「ねぇ!今のどうやったの!?」
「えっ……どうって、普通に?」
それが斉木由美(さいきゆみ)と矢口巧(やぐちたくみ)の最初の会話だった。
なんの気なしに弓道部に入った由美にとって、巧の放つ矢はまるで一本の線。
足を開いて残心に至るまでのその全てに、由美は思わず見惚れてしまったのだ。
物怖じしない、ともすれば無遠慮な由美の性格のお陰か、二人はすぐに仲良くなった。
由美は巧を眺めるその中ではじめて弓道の美しさを思い知り、巧は初心者の由美に教えることで己の未熟さを知った。
二人は、良いコンビだった。
だが、部活内の政争に巻き込まれて、結果として由美は部活を退部することになる。
それでも、二人の友情は続いていた。
終わりのチャイムが鳴り響けば由美は教室を後にし、時たま他の帰宅部の友人と喋っては時間をつぶす。
そうして最後には、体育館の横に備え付けられた自動販売機の隣に座り込んで、遠くから響いてくる弦の音に耳を傾けるのだ。
由美はそこで、巧の部活が終わるのをいつも待っていた。
これはそんな二人の、とある放課後の出来事。
暑い一夏の、忘れられないひと時。