あらすじ
近代産業史を専門とする大学教授・高島は、学生が見せた一枚のスクリーンショットをきっかけに、「検索できない島」の存在を知る。
長崎県北東沖に実在したとされるその島は、大正期に金鉱の発見によって急速に発展し、劇場や学校を備えた共同体を築いていた。
しかし戦後、島は地図から消え、記録は削除されたのではなく、表記の揺れやリンク切れによって“参照できない状態”に置かれていた。
調査を進めるうちに、高島自身の現実にも異変が起こる。
大学の講義担当表示から名前が消え、研究者ページは「存在しません」と表示される。
連絡は遮断されるが、否定も命令もない。
あるのは「念のため」「安全確認」といった丁寧で正しい言葉だけだった。
抗議する入口すら見つからないまま、接続だけが静かに断たれていく。
一方、資料が語る島の過去は、金鉱によって人が戻り、劇場「金栄座」を中心に名前で呼び合う幸福な時代だった。
島は合理的に発展し、人々は選択肢と未来を得る。
しかし人が増え、効率と安全を理由に番号が導入されると、呼び方の順序は変わり、名前を確かめる時間は削られていく。
管理は進み、説明は整い、正しい理由のもとで島は静かに運用されていった。
高島は、島の運用と自分に降りかかる出来事の酷似に気づく。
削除ではなく停止。
否定ではなく配慮。
正しさが積み重なるほど、誰も悪者にならないまま、誰かが消える。
研究費の期限と生活の重圧の中で、高島は「成果」を理由に島の真相へ踏み込む選択を正当化していく。
しかしそれは、かつて島を扱ったのと同じ運用への加担でもあった。
本作は、説明が与えられるほど人が静かになり、納得が感情として完成したとき、抵抗が失われる過程を冷ややかに描きながら、名前と存在が消えていく社会の仕組みを突きつける。
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※本作は完稿済み(全39話)です。
※毎日20時に1話ずつ更新されます。