あらすじ
王太子ルシアンから告げられた婚約解消の理由は、「聖女」と祭り上げられた少女イリヤの存在だった。
奇跡を起こしたと噂され、皆が信じ、皆が望む象徴。けれど殿下は一度もその力を自分の目で確かめていない。私は静かに言い切って席を立つ。「人の力は噂の中ではなく、目の前で確かめるものです」と。
その直後、中庭で開かれた“聖女の実演”。倒れた者を前に、イリヤは手を重ねるが何も起きない。期待だけが場を固め、沈黙が重くなる。そこで私は同じように触れ、ただ待つ。すると、倒れていた者が息を整え、目を開いた。
奇跡ではない、事実が並んだだけ。誰の言葉が奇跡を作り、誰の功績が奪われていたのか。真実が露わになった瞬間、殿下は手のひらを返す。「婚約を元に戻してほしい、君の力が必要だ」と。
けれど私は首を縦に振らない。
信じなかったのではない、確かめようとしなかった。都合よく戻る関係に、私の信頼は含まれていない。
私は選び直す。価値を本当に認める場所へ。噂に流される王太子ではなく、私を見て決める未来へ。