あらすじ
三十歳。派遣清掃員。
名前は沙織。
人と関わるのが苦手な彼女は、工場の喫煙ラウンジで黙々と床を磨いている。
誰にも見られず、誰にも必要とされず、ただ空気のように扱われる日々。
けれど彼女には、ひとつだけ特別な才能があった。
何気ない会話の断片、現場の違和感、組織の歪み。
それらを静かに観察し、頭の中で構造として組み立てる力。
夜、狭いアパートの一室で、
彼女は「Sao」というペンネームでWeb小説を書く。
それは理想のITスタートアップを描いた物語。
市場戦略、組織心理、承認欲求を武器に戦う経営ファンタジー。
ただの慰めのはずだったその物語が、
ある日、海外のMBA関係者の目に留まる。
世界が彼女の才能を見つけ始める一方で、
彼女の想いは、派遣先の年下正社員がくれた
たった一本の「ほうじ茶」のペットボトルに留まったままだった。
声を持たない観察者は、
やがて世界に問いを投げる存在へと変わっていく。
これは、
誰にも見られなかった女性が、
静かに世界へ接続していく物語。
そして、
決して報われない片想いの物語。