あらすじ
灰の蒸気が漂う城下町。
魔道具修理店を営む技師アシュレイ・クローヴ(33)には、ひとつだけ“直せない故障”があった。
二十年前――学院の帰り道。
赤いローブの女が囁いた瞬間、相棒の少女ルカは肉体ごと霧散し、魂だけが引き裂かれた。
天才技師リゼットの魂固定術で、残された欠片は機械人形(オートマタ)の器に仮固定される。
そうして生まれたのが、見た目は十歳ほど、記憶のない少女リュカ。
彼女は“代わり”ではない。アシュレイの工房で笑い、からかい、日常の中心になっていく存在だった。
だが、魂は静かにズレていく。
「このままでは、最短一年で消える」
宣告の夜、リゼットが深律教団に攫われ、血まみれの宮廷魔術師ノアが駆け込んでくる。
世界の深層律を“正しく戻す”と掲げる教団は、欠けた魂を“端子”にして世界のログ(過去の記録)を引き出し、崩壊を止めようとしていた。
救済の名のもとに、他人の人生で上書きする――それが彼らの正義。
守るために閉じ込めるのか。
一緒に進むのか。
「置いていかないで」
その一言で、アシュレイは決める。リュカと旅に出ることを――
実技ゼロの“理詰めの魔術師”は、三秒だけ亜空間へ跳ぶ魔道具《クロノス・レイテンシ》で戦場を解析し、最適解を拾う。
無邪気な機械人形の少女は、武術《天元無尽流》の“無”と噛み合い、虚線の魔術を素手で断ち切っていく。
そして影では、リゼット、ノア、龍人の古老リュドラが《アーク・プロトコル》として、二人の旅路を支え続ける。
最後に突きつけられる選択。
奪われた魂を返せば“元のルカ”に近づく――代わりに“今のリュカ”は消える。
世界を救うために、目の前の“今”を消していいのか。
蒸気と魔術、虚線の魂と対話の推理。
これは、欠けたままでも生きると決めた少女と、理詰めで未来を書き換える技師の物語。