あらすじ
後宮の文書房で働く下級女官・翠鈴は、詫び状や返書を整え、波風を立てずに人の想いを届けることを仕事にしている。
ある日、第三皇子・蒼珀から雪麗妃へ送られた返書に、わずかな違和感を覚えた翠鈴は、控えと現物の差に気づく。冷たいことで知られる蒼珀の文に見えながら、その一通だけは“冷たさを借りて逃げる文”だったのだ。
違和感を追ううちに、翠鈴は蒼珀の返書が少しずつ改ざんされ、彼の「冷徹な皇子」という評判が後宮の内外で都合よく利用されていることを知る。
さらにその裏には、過去に蒼珀が人を救えなかった傷と、それを利用する者たちの思惑が隠されていた。
言葉で人を守りたい翠鈴と、誤解を増やさぬために沈黙を選ぶ蒼珀。
正反対の二人は、文の真実を追う中で少しずつ互いの孤独に触れていく。
そして迎えた公の審議の場で、翠鈴は“書かれた言葉”ではなく“書かれない言葉”から、蒼珀の無実を証明しようと立ち上がる――。
これは、後宮の片隅で文を整えてきた女官が、最後に自分の言葉で未来を選ぶ物語。