あらすじ
夫が遺した手紙を開けてはならない——義母の震える声が、私を引き留めた。けれど、もう止まれなかった。
穏やかだった夫が突然の病で逝った。伯爵家の未亡人として静かに喪に服すはずだった。夫の書斎の二重底から見つけた一通の手紙が、すべてを変えるまでは。
封を切って現れたのは、夫の遺書と——王太子が署名した一枚の命令書。「帰還は不要」。夫の死は病ではなく、王宮の闇に消されたものだった。
真実を知った瞬間、私は標的になった。
王宮の不正を暴く証拠は、夫と義父が二代にわたって命がけで集めたもの。その最後の一片が、私の手の中にある。
味方は、夫の遺志を継ぐ辺境の男爵と、王宮の魔法局員。けれど相手は、この国の権力そのものだ。
手紙を燃やせば、元の暮らしに戻れた。けれど夫が最後に書きかけた言葉が——途切れたあの一行が、私を前に進ませる。
証拠を集め、観察し、検証し、一枚ずつ嘘を剥がしていく。夫が私に遺したのは悲しみではなく、戦う理由だった。