あらすじ
直樹は、リストラに伴う子会社への出向と営業職への配置転換を命じられたことに反発し、その日のうちに退職を決意する。十年以上システムエンジニアとして真面目に働いてきた自負があった彼にとって、それは努力を否定された裏切りのように感じられた。帰宅後、妻の香織に報告するが、理解を得られると思っていた直樹の期待は外れ、香織は将来への不安を強く訴える。三十代後半に差しかかる年齢、子どもや家の購入、収入減や退職金の喪失など、現実的な問題を挙げる香織に対し、直樹は「やりたい仕事をするべきだ」と感情的に反発し、二人は激しく衝突する。勢いのまま家を出た香織は、その後実家に戻り、関係は冷え切っていく。
数週間後、二人は思い出のカフェで再会する。直樹は謝罪し復縁を望むが、就職先も決まらないままでは将来像が描けないと香織は告げる。出産のタイムリミットや経済的不安を訴え、「もう良いイメージが持てない」と言って離婚届を差し出す。直樹は猶予を求めるが、香織の決意は固く、二人の関係は事実上終わりを迎える。
失業と離別を同時に抱えた直樹は、虚無感の中で無気力な日々を送る。ある雨の日、空き地で見つけた朝顔の種を持ち帰り、酔った勢いで臍に押し込むという奇妙な行動に出る。やがてそれを忘れたまま時間が過ぎるが、ある日シャワー中に臍から芽が出ているのを発見する。信じがたい現象に戸惑いながらも、芽に触れるうち、直樹は小さな種の中に宿る生命の力と、自分が失ったものの大きさを重ね合わせる。
腹から芽吹いた朝顔は、混乱と絶望の中にいる直樹にとって、不思議な現実感と再生の象徴となる。笑いと涙が同時に込み上げる中で、彼はようやく自分の現状を直視し始める。そして静かに机に向かい、離婚届を前に座る。外では気の早い蝉が鳴き始め、長い梅雨の終わりと新たな季節の気配が、直樹の人生の転機をほのめかしている。