あらすじ
幼いころ、庭で鎖につながれた老犬に襲われた。
左目の奥に残った闇は、大人になった今も消えないままだ。
突然の入院で、病室の白い光の中、
封じていたはずのその記憶が静かにほどけていく。
夜になると、鎖の音と、泣いている“もうひとりの自分”が
闇の底から浮かび上がってきた。
そしてある秋の日、兄とその子どもたちと再会する。
風の中で笑う小さな背中を見つめながら、
過去と現在がそっと重なり、あの日の痛みが少しだけ違う形に変わっていく。
――豆粒みたいに小さかった命が、
こんなふうに風を切って進んでいくのを見届けながら。
幼少期の傷と家族の記憶をめぐる、静かな短編。