あらすじ
創作の質を上げるには何年もかかる——本当にそうだろうか。神経科学者ボイド博士は、脳が行動によって化学的・機能的・構造的に変化することを示した。リム博士はジャズピアニストの即興演奏中の脳をfMRIで撮影し、自己検閲が抑制され自己表現が解放される瞬間を捉えた。一九八三年、リチャード・デニスは素人二十三人に二週間のトレーニングを施し、五年間で一億七千五百万ドルを稼がせた。短期間の介入で人は変わりうる。では、創作ではどうか。本論考では芥川賞選考委員九名の評価データから創作の質を測る基準を抽出し、ある作家が未経験の領域で書いた短篇をその基準で検証する。さらに、AIに同じ作品を分析させたところ、意図的な構造装置を技術的欠陥と三度にわたり誤読した記録を公開し、創作評価におけるAIの構造的限界を指摘する。一万時間の法則は創作に適用されるのか。才能の枯渇は本当に起きているのか。科学的知見と限定的な実験データから、創作の質が短期間で変わりうる条件を提示する。作品「五月の熱」全文収録。レシピはない。しかし原理はある。