あらすじ
中国よる台湾侵攻が秒読みに入った2026年春。
日本社会は「逃げる者」「残る者」「戦う覚悟を叫ぶ者」に分断されていた。
元外交官の篠原は、テレビで繰り返される内閣総理大臣・早坂真奈美の強硬発言に違和感を覚えていた。彼女の言葉は正しい。だが、正しすぎる。必要のない場面で「覚悟」を連呼し、中国メディアに格好の口実を与え続けている。
ある日、篠原は早坂と私的な場で対峙する機会を得る。
「あなたの覚悟は本物だ。だが、あなたの言葉は戦争を近づけているだけに過ぎないのでは」
早坂は答える。
「黙っていれば平和が保たれると? それは逃げた者達の言い訳です」
篠原は静かに首を振る。
「愛国は叫ぶものじゃない。防衛は感情論じゃ成り立たない。最も危険なのは、覚悟があるつもりで軽率な発言を繰り返す事だ。対岸の火事じゃないんだぞ」
言葉が武器になる時代。沈黙もまた、戦いの形だと篠原は知っている。だが、その沈黙を「臆病」と断じる者たちが、今この国を覆い尽くそうとしていた。