あらすじ
魔王ゼル=アークは、勇者レクス・ブライトに討たれ、闇の玉座とともに沈んだ――はずだった。
だが次に目を開けると、ゼルは白い寝台の上にいた。
呼吸し、鼓動し、祈れば光が溢れる“聖女セシリア”の身体で。
周囲は歓喜し、奇跡を求める。けれどこの国の聖女は、崇拝の仮面の下で「国家資源」として契約と規定に縛られ、拒否権も逃げ道もない。しかも聖女の癒しは肉体ではなく“魂”を削る行為で、歴代聖女は二十歳前後で衰弱し、消えるように死んでいく。
さらに、ゼルを討った“勇者本人”レクスが王命で護衛――つまり監視役として付き従う。レクスは聖なる力の奥に混じる闇の気配を嗅ぎ取り、聖女の正体を疑う。
一方で教皇庁は、聖女の魂を「守る」と称して誓印(首輪)を刻み、逸脱すれば痛みや衰弱で黙らせる仕組みを整えていた。記録は抜き取られ、証拠は消され、聖女が壊れる手順だけが“正しさ”として残る。
ゼルは台帳の数字と欠落から、この制度が意図的に聖女を使い潰していると掴む。遺品から見つかったセシリアの日記には、脅迫と誓印の疼き、そして最後の一行――「もう癒す力なんて残ってない」。それは、聖女が倒れたのが事故ではなく“仕様”だったことを告げていた。直後に下るのは、明朝の大規模奉仕命令。「要人治療を最優先」と書かれた命の順番。
だから魔王は決める。拒否はしない。だが、言われた通りにも動かない。
聖女として祈り、癒し、微笑み、守る言葉で鎖を締め返し――この国の“聖女制度”という仕組みそのものを、光と理で征服する。